飯田橋 大仙 閉店

吐息の合唱。

食べ歩き ,

中 華 粥 七百円

「ああ」。
お粥を食べると、いつも決まってこの言葉が出る。いや、言葉というより吐息に近い。
では、この「ああ」の後に何を言うかというと、「ああ、腹一杯」でも、「ああ、おいしい」でもない。

「ああ」の後は無言。あるいは再び「ああ」。強いていえば「ああ、温まる」。
こうした言葉が思わず口をつくのは、お粥が、人を安堵させたり、癒したりする不思議な力があるからに違いない。
そのせいだろう。中華粥一筋の大仙には、「ああ」だけが満ち満ちていて、客は皆、温和な顔で食べている。
「おいしそうな賑わい」。という表現があるが、大仙にあるのは、「幸せそうな静けさ」だけである。店内には、お粥をすする「ズズーッ」と、「ああ」だけが響き渡り、どの客も皆、黙々、静々、悠揚と食べている。
昼時など、七席のカウンターはすぐに満席となるのだが、サラリーマンの二人連れも、学生も、カップルも皆、「ズズーッ」と「ああ」しか発しない。
別に静かだからといって、食欲がないから仕方なく、風邪気味だからとりあえず、といった姿勢ではなさそうだ。食べ終わった顔を覗くと、一様に満ち足りた顔をしている。
大仙のお粥は、玄米と白米の二種類。米を決めたら、塩か醤油(七百円)味噌味(七百五十円)を選択し、次にトッピングする具(種)を選ぶ。
それぞれの具が書かれた短冊には、「目の疲れに」、「風邪に」、「イライラ解消に」、といったキャプションが添えられており、ふだん不摂生している身には、どれもこれも頼みたくなってしまう。 味噌味のしじみ(百円)と煮干し(二百円)の組合せもいいし、醤油味に、柔らかい食感の鳥つくね(三百円)、ワンタン(三百円)、干し貝柱(三百五十円)を入れて、豪華粥にするのも悪くない。

あるいは、塩味に梅肉エキス(五十円)を加え、具はサクサクとした油條(百四十円)だけのシンプルな粥もうまいし、鳥レバー(二百五十円)と牡蠣(三百五十円)で、鉄分強化といくのもいい。
こうして様々な注文が入ると、一人で切り盛りするご主人が、黙々と作り始める。やがて手渡されるお粥は、ポタージュ状ではなく、汁気が多い雑炊タイプ。淡い味付けだが、それゆえに食べ進むと、米自体のうまさがつのり、自然に「ああ」と発して、目を細めるのである。

新宿区神楽坂1-14 東邦ビル2F/ 神楽小路

閉店

鄧小平氏は油条が大好きで、来日時(1978年10月22日~29日)この大仙の油条を買いに来て、鄧小平氏曰く「こんな美味い油条は中国にも売ってない」と言わしめたらしい

写真はイメージ